『おまじない』西加奈子

 「あなたを救ってくれる言葉が、この世界にありますように。」本の帯に書かれているこの1文。

 思春期の少女、社会人に成長した女性、結婚して家族になった母親と子ども、無茶をして働く若い女性、社会のしがらみに疲れた女性たち、不安だらけの妊婦さん、人生の中盤にさしかかった40代の独身女性、純日本人として育てられたアフリカ人とのハーフの女の子。誰しも自分と重ね合わせることのできる様々なシチュエーションと言葉たち。きっとグッとくる文が見つかるはずだ。

 私が心をひきつけられたのは3ヶ所。

 1つ目は「孫係」の章で、おじいちゃんから、いい子ども、いい孫を演じることに罪悪感を持っている孫へ向けられる言葉。『私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ。』母親、そして妻という役割に少し疲れてしまったときに、グッと踏みこたえることができそうだ。

 2つ目は「マタニティ」で、子どもを産み育てることに不安を感じている妊婦さんへ、落ちるに落ちてしまったサッカー選手がテレビの中から語りかけた言葉。『自分が弱い人間なんだってはっきり自覚したら、ぼく、強がってたときよりなんていうか、生きやすくなったんです。』「自分の弱さを受け入れる」。私がなかなかできないこと。けれど、必要なこと。自分を偽らない、ありのままで。改めて心に刻むことができた。

 そして、3つ目は「ドラゴン・スープレックス」で、仲良しのおっちゃんから、育ててくれたひいおばあちゃんが亡くなったため、本当の母親と暮らすことになった状況に戸惑っているアフリカ人とのハーフの女の子へ向けた言葉。『お前がお前やと思うお前が、そのお前だけが、お前やねん。』自分は自分が決める。なりたい自分になることが、人生の希望へとつながっていくんだ。パッと目の前がひらけた気分。

 この本は、10年ぶりの短編集。西加奈子さんの小説といえば、個性的すぎる女性が活躍するイメージだが、今回も8人の、それぞれに独特な女性たちが自分をさらけ出してくれている。そんな彼女たちを見ていると、人生は谷ばっかり。けれど、谷があれば山も必ずやってくる。だから、自分らしくいていいんだ、と勇気をもらえるのだ。人生の節目節目、そして何かに思い悩んだときに、開きたい一冊。

 さらに、西さん自身が描いたイラストも必見。色彩豊かでセンスのかたまり。明るい色から暗い色までさまざまな色であふれている西さんの心の中が垣間見える。

 

おまじない (単行本)

おまじない (単行本)